リクルートキャリアが運営する「リクナビ問題」が大きく報じられた。まさに就活生のビッグデータを悪用した重大な事案である。ビッグデータ時代とは、文字通り大量の情報を蓄積し分析することで、時代の傾向やトレンド、人々の動き、自然現象などをリアルタイムで把握し、それらをビジネス等あらゆる分野に活用できる時代のことである。IT(情報技術)革命なくして実現できなかったことである。ITの進化によって大量の情報を蓄積し分析することができるようになった成果である。
しかしビッグデータ活用には個人情報やプライバシー面で多くの課題も存在する。ビッグデータのもとは個人が発した「つぶやき」や個人のサイト閲覧歴、購入履歴などであり、個人の言動と密接に結びついている。一つのデータだけでは個人が特定されなくても、各種データが重なれば限りなく個人が特定されることになる。今や画像データも著しく進化し、個人の顔を識別することも可能になっている。データがビッグになればなるほど個人情報やプライバシーを守る防御壁もビッグにならなければならない。そうでないと重大なデータ流失や奪取が発生し、多くの人々のプライバシー侵害をはじめとする多種多様な人権侵害が起こる。その危惧してきたことが就職活動時に実際に起こったのがリクナビ問題である。
リクルートキャリアは、リクナビに登録した個々の学生が閲覧した企業や業界のサイト情報をAI(人工知能)で分析し、就活中の大学生が同業他社や他の業界のサイトを閲覧した記録や閲覧時間の傾向から内定辞退率を5段階で算出し、学生の同意なく38社に販売していた。ほとんどの就活生はこれらの就職情報サイトに登録し個人情報を提供している。それらが本人の同意もなく企業の利益のために悪用されていたのである。
リクナビは掲載企業数約3万社で登録学生数約80万人といわれている業界最大手の一つである。学生は無料であり顧客企業からの掲載料で成り立っているビジネスである。私が危惧しているは、今回のような内定辞退率を評価されるようなことだけではない。就活生の趣味嗜好や思想信条等がある程度把握され、それらが採用判断に差別的に利用されるのではないかということである。またターゲット求人活動に利用されるのではないかと危惧しているのである。今やマイクロターゲット広告が可能になっているように企業が好む学生集団や学生個人へのターゲット求人活動が行われないかを心配しているのである。
ビッグデータをAIに分析させることによって、求人企業が求める潜在的な就活生の情報を割り出すことも不可能ではない。さらにいえばデジタル差別身元調査が行われる可能性も存在しているのである。リクナビ問題を契機に個人情報保護と公正採用の在り方を改めて考察すべきだといえる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)