前回に引き続いてリクナビ問題について言及していきたい。
もしリクナビの内定辞退率を基に内定されるはずの就活生に内定が出されていなければ間違いなく就職差別といえる。過去の差別身元調査事件でも、企業側とのあうんの呼吸で調査会社側が企業が調べてほしいと考えていると思われる調査項目を忖度して決めていた。
こうしたことがネット上で行われていくと、それらの実態を把握することも、取り締まりをすることも極めて難しくなる今日におけるサイバー犯罪の取り締まりが困難を極めているのと同様のことが、差別身元調査の分野でも発生するということになる。
それだけではない。ネット上は容易に複数の個人データを重ねていくことを可能にする。個人データは重なることによって新たな問題を生み出す。
化学反応では、一つの化学物質だけでは問題は発生しないが、混ざり合わさることによって有毒ガスになるように情報が重なることによって、人権侵害につながる情報になることも多々ある。まさに情報が化学反応を起こすように極めて有害な差別情報やプライバシーを侵害する情報へと変化していくのである。
一つの情報だけではセンシティブ(機微)情報でないものが、重なることによってセンシティブ情報になるのである。ネット上ではそれが容易に可能になる。そうしたことを助長しようとしている悪質なグループも存在している。
センシティブ情報とは、政治的見解、信教(宗教、思想及び信条をいう)、労働組合への加盟、人種及び民族、門地及び本籍地、保健医療及び性生活、並びに犯罪歴に関する情報と定義されており、情報漏えいによって社会的差別を受けうる情報である。
個人の住所だけではセンシティブ情報ではないが、それらの情報が被差別部落の住所一覧と重なれば容易に「社会的差別を受けうる」センシティブ情報に変化する。これらの情報がネット上には多数存在している。
多くの人びとを死に追いやったサリン事件ではないが、ある液体と別の液体が混ざれば極めて有毒なガスが発生すると知りながら、個別の二人が同じ場所にその液体を落とす行為を行ったとしよう。そこに有毒ガスが発生するのは必然である。それで多くの人びとが亡くなったとすれば紛れもなく殺人罪である。
そうしたことがネット上では情報分野で日常的に発生している。それが就職差別につながらないようにするためには電子空間上の情報環境をふまえた自己情報コントロール権の確立が強く求められているのである。
就活生も強い関心を持つべきといえる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)