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【社会に出る学生のための人権入門】(第30回)人権とは? フェイク(虚偽)情報を見抜く能力を(2020/02/13)


 人間が物事を考える前提は各種情報である。その情報がフェイクであれば、人々の判断は根底から覆る。この情報の伝わり方が今日ではかなり変化し、個人もマスメディア的位置を占めるようになってきている。その代表格がSNS(ソーシャル・ネットワークキング・サービス)である。個人が発信した短文や写真、動画が、アッという間に多くの人々に広がっていく。その中のフェイク情報に多くの人々は大きな影響を受けている。
 フェイク情報の拡散に予断や偏見が活用されることも頻繁に見られる。予断や偏見はフェイクを広める触媒にもなっている。デマが伝わるときは社会的な偏見に迎合する形で情報が歪曲されていることが多い。こうしたことを同化というが、多くの人々にとって同化された情報のウソを見破るのは極めて難しい。

 SNSのフェイク情報は短文で一挙に多くの人々に伝わる。こうしたフェイクが横行すればフェイクに対する罪悪感も薄れ、フェイクを聞かされる方も「慣れ」ともいえるような状況になる。本来なら極めて重要な悪行にもかかわらず、怒りさえも感じなくなってしまう。現在の日本の社会状況がそのようになりつつあり、人々の人権センサーが限りなく鈍感になっていくようで大きな危惧を抱いている。

 人間も痛み等のセンサーが鈍感になれば、心筋梗塞等の重篤な病に罹っていても胸に痛みを感じることがなくなることがある。そうした中で病はさらに悪化し、そのまま亡くなってしまう人がいる。人間の身体のセンサーが鈍感になれば、上記のような状態になるように、人々の人権センサーが鈍感になれば、人権状況の悪化を自覚したときには、その状態が取り返しのつかない事態に進行していることは多くの歴史が示している。

 私たちは日々の生活の中で、「昨日に変わるように見える今日、今日に変わるように見える明日」と考えてしまうことが多い。しかし数年という単位で観察すると時代が大きく変貌していることがある。また私たちは日々様々な情報に囲まれて生きている。その影響から逃れることはほぼ不可能である。
 すべての情報は何らかの操作が行われており、それらの情報に晒されている。その正否を知るすべはほとんどの人々にはない。SNSで入ってくる情報はほとんどの場合、情報の真偽も精査されていない。どの情報が正確な情報かも一般市民にとっては分からない。
 メディアの概念も変わりつつある現在において、テレビ、新聞、ラジオ等の既存マスメディアに対するメディアリテラシー能力だけでなく、SNS等で個人が発信する「個人発信型マスメディア」等への情報リテラシー能力も極めて重要である。そうした能力はすべての教育の基盤として行われなければならない。義務教育から大学教育、社会教育、職場教育においての最重要課題であるといえる。今日の社会的課題を解決していく基盤的な教育といっても過言ではない。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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