前回に引き続いてフェイク情報やフェイクニュースについて考えていきたい。
一つの情報が多くの人びとに計り知れない影響を与える。かつてマスメディアが「第四の権力」といわれた所以でもある。つまり情報は「政治権力」を行使するのと同様のパワーを持っているということであり、あらゆるものを攻撃するツールとして利用できるということでもある。
誤用を許していただけるなら「ペンは剣よりも強し」ということなのである。本来この諺は権力や暴力に屈しない言論の力を示したものであるが、この「ペン」がフェイクニュースや情報「兵器」として悪用されるような事態が、国際的な規模で起こっているのである。
今日の情報環境は、SNS等がなかった20世紀と違って、個人やマスメディアでもない組織が、SNS等を活用してマスメディアと同様の力を持つようになっているのである。つまり既存メディアである新聞、テレビ、ラジオ等のメディアリテラシーへの関心とともに、SNS等で電子空間上を駆け巡るフェイクニュースにも注視しなければ、社会に多大な悪影響を与えていることが見過ごされてしまう危険性がある。
今やフェイクニュースは戦争の手段となり、サイバー攻撃「兵器」の役割を担っているといっても過言ではない。戦争もハイブリッド化し、私たちの中にある戦闘機や戦車等を使用したこれまでの戦争というイメージから変化し、軍事行動の位置づけが低下してきている。サイバーツールを利用した相手国に対する様々な攻撃が多用されており、武力を用いた「軍事行動」から「情報戦」にシフトしてきているといっても過言ではない。
軍事大国といわれる国々のハイブリッド戦では、兵器や武器が使用される軍事行動の位置づけは全体の20%~25%ぐらいといわれている。
例えばロシアでは、米国大統領選挙への関与の中で指摘されているネット世論操作、戦略的情報漏洩、サイバー攻撃、プロパガンダ、国内外のメディアへの情報操作等も戦争の手段として位置づけられている。これら以外にも相手国の各種組織への支援と妨害、政治・経済・社会への攪乱等のサイバーツールが多用されている。これらの戦術・戦略を推進するためにフェイクニュースを使用した情報操作が行われているのである。これはロシアだけではなく、米国等多くの国で同様のことが行われている。
つまり国内外で多くの市民に対する情報操作が日常的に行われているのである。こうした戦術の手段として悪用されているフェイクニュースを見抜く能力を持つことが現代社会の必須のアイテムになっており、人権確立のための基盤的要素になっているのである。
次回はフェイクニュースによって膨大な悪影響を受けた具体的な事例を紹介していきたい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)