今、新型コロナウイルス感染禍にあって、これまでの日常生活を一変させている。新型コロナウイルス感染問題に関する情報が公式・非公式を問わず膨大な量に上っている。こうした情報の中にはフェイク情報も数多く含まれており、多くの人びとはそれらの情報に翻弄されている。日常生活や社会・経済にも多大な影響を与えている。未だ専門の研究者でもそのウイルスの正体が詳細に把握できていない。そのことによって不安が増幅されている。情報の不正確さや人びとの不安は、流言やうわさ、フェイク等を容易に信じさせ拡散させてしまう基盤を強化している。こうしたことは多くの歴史上も散見されたことであるが、現在は情報環境の大きな変化によって、情報に関わるこれまでの歴史的事実をはるかに超える勢いで、ファクト(事実)情報もフェイク情報も拡散されている。一言でいえば情報量が、スペイン風邪が流行した100年前に比較して桁違いに増加し、情報が伝達されるスピードと拡散力も大きくアップしている。とりわけフェイク情報はファクト情報に比較してスピードで20倍、拡散力で100倍である。
こうした変化がフェイクニュースやフェイク情報に極めて大きな力を与えてしまった。情報操作をする側にとっては操作が容易になり、される側にとってはこれまで以上に操作されやすい環境になった。こうした情報環境の下、フェイク情報に翻弄され、間違った選択をしてしまう人びとが増加した。
人びとの不安の強度は、情報操作に対する脆弱度合いと密接に関わっている。不安をかき立てればかき立てるほど、人びとは簡単に操作されてしまう。買わなくてもよい商品を買うのはその典型だ。客観的に見ればマイナスになるようなことを確信的に行ってしまう。不安のエネルギーは、健全な社会を変貌させる大きな力を秘めている。
そして今日の情報環境の特性もフェイクが拡散されることに大きく影響している。そのキーワードがこれまでに紹介してきた「ホモフィリー」と「エコーチェンバー」という2つのキーワードである。
ホモフィリー(同類性)とは、人は同じような属性を持つ人々と「群れる」という考えをベースに、個人を同類の他者と結びつけることを重視するソーシャルネットワークの基盤的な考え方である。エコーチェンバー(反響室)とは、考え方や価値観の似た者同士で交流し、共感し合うことにより、特定の意見や思想、価値観が、拡大・強化されて大きな影響力をもつ現象である。新型コロナウイルス感染禍におかれている私たちは、同じような状況におかれているという同類性をもつとともに、そのことによって迎合的になり、エコーチェンバーが起こりやすくなっている。フェイクを信じてトイレットペーパー等の日常品の買い占めなどが起こったのはその顕著な事例である。次回にさらに掘り下げていきたい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)