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【社会に出る学生のための人権入門】(第34回)人権とは? フェイク情報の拡散に悪用されるSNS Ⅴ(2020/06/09)


 新型コロナウイルス感染禍の下で、テレビ、新聞、ラジオをはじめ既存メディアから報道・放送される未曾有の情報は、SNS等の個人発信型の圧倒的な情報量と相まって、多くの人びとに過剰な不安を与えている。そのことが新型コロナウイルスに感染した人びとへの不当な攻撃になっている事案も増加している。まさに人権侵害行為であり、差別行為といえるものも少なくない。まさに過剰な報道とフェイク情報によって、新型コロナウイルス感染者へのバッシングやヘイトスピーチにつながっているのである。偏見や予断が確信的なものに変化しているといっても過言ではない。それだけではない。SNSには感染した有名タレントに極めて悪質な書き込みをしている事例も多数に上る。過剰なフェイクとファクトがミックスされて、多くの人びとの不安心理を基盤として過剰行動に走る人びとも増加した。実際に日用品が部分的に不足する事態が生まれた。個々人もSNS上でそのような情報ばかりを探すようになり、さらなる悪循環に陥ってしまった時期があった。マスクに至っては薬局が開く数時間前の早朝から入口に並んでいる人びとまで現われた。そのことによってマスク不足になり便乗値上げまで発生し、多くの薬局やコンビニでも品切れが続いた。

 以上の傾向がネット社会の進化とともにより顕著になった。人びとは簡単に誘導され、デジタル情報によって、脳が分析されて乗っ取られる「ブレインハッキング」という現象まで生起するようになった。こうした傾向が新型コロナウイルス感染症に関わるフェイク情報の拡散に大きな影響を与えた。

 「パニック」とも呼べる特殊な不安状態に置かれている今日の状況と似通った社会的状況は過去にもあった。個人の不安だけではなく社会全体が不安な状況になれば、情報操作を一層受けやすくなることは過去の事例が証明している。今回の不安は日本だけではなく世界的なものである。それも戦争と同じように命に関わる恐怖と不安である。それも見えない敵(ウイルス)との闘いなのである。

 人びとは不安な状態に置かれ、自身では解決できない事態に遭遇した場合、その不安から逃れるために間違った情報でも、その情報を信じて行動するようになることがある。端的に指摘するとフェイク情報であっても、容易に信じるような社会的状況になるということである。不安を煽られて、本来なら必要でないものを騙されて買ってしまうということが起こる。説得されやすく騙されやすくなる。こうした時代だからこそ情報とりわけフェイク情報に操作されない能力が重要なのである。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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