前回に引き続いて新型コロナウイルス感染症問題とフェイク情報について、具体的事例を上げながら紹介していきたい。
本年8月4日「嘘みたいな本当の話で、嘘みたいな真面目な話をこれからさせていただきたいと思います」という言葉で切り出した吉村洋文大阪府知事の記者会見である。冒頭の発言はテレビメディアでいえば「スクープです」といったことに匹敵するほど視聴者を引きつける言葉である。続いて「ポピドンヨードを使ったうがい薬、あ、今、目の前にいくつか種類がありますが、皆さんもよく知っているこのうがい薬を使って、そして、うがいをすることによってですね。コロナの患者さん、このコロナがある意味、減っていく。コロナの陽性者が減っていく。まあ、薬事法上、効能を言うわけにはいきませんが、コロナに効くのではないかという研究が出ましたので、それをまず皆さんにご紹介するのと、それから府民の皆さんへの呼びかけをさせていただきたいと思います」という内容が続いた。
明らかに大きな誤解を生み出す記者会見である。個別商品を目の前に並べて知事がテレビショッピングのように記者会見をするのも私自身は見たこともない。この記者会見によって薬局等からうがい薬が一斉に買われ、市場に混乱が生じたことは多くの人びとの知るところである。今一度、情報を送り出す方も十分に配慮すべきである。またこの記者会見を受けたある民法テレビ局のスクープのような放送姿勢にも大きな疑問を持った。このコーナーで新型コロナウイルス感染症問題とフェイク情報を取り上げて良かったと思った。
新型コロナウイルス感染症を巡っては読者の皆さんもご存じのようにすでに多くのデマやフェイクが拡散している。「コロナは26~27度で死ぬ」といったフェイク情報は瞬く間に拡散した。「そのため、お湯をたくさん飲む。お湯を飲ませれば予防できる。冷たい水、特に氷水を飲まないでください。お湯を飲むことはすべてのウイルスに効果的です」といった誤った予防法が広がった。さらに「ニンニクを食べると感染予防になる」「ゴマ油を塗ると予防できる」など根拠のない大量のフェイク情報が垂れ流されていた。
これらのフェイク情報を信じて多くの人びとがリツイートし、フェイク拡散の加害者も拡大した。そしてこれらの拡散パワーの源が善意であることも少なくなかった。またフェイクの分野によっては、これまでの傾向と異なり学歴や経済力が高い人ほど大きな影響を受けていることも明らかになっている。
私はこうしたフェイク情報をどのように見抜けばよいのかといった質問を受けることが多々ある。そこでフェイク情報を見抜く実践的なチェックリストを以下に紹介する。
①異なる意見に触れる。
②自分のバイアス(偏見)を知る。
③情報の真否を確認する。
④信じている情報で社会はどうなるかを考える。
⑤情報の発信元と情報源を確かめ情報媒体を精査する。
⑥レッテル貼り(ネームコーリング)が行われていないか精査する。
⑦情報の狙いを精査する。
⑧情報の5W1Hを確かめる。(部分的な情報でないかを精査する。)
⑨悪質な「証言利用」や「権威利用」が行われていないか精査する。
⑩情報が広告なのか報道なのか等の種類を正確に知る。
⑪偏見、予断等に迎合していないか精査する。
⑫バンドワゴン(直訳すれば「楽隊車」であるが「大衆の同調性向」という意味)に騙されない。(多くの人が信じている)ことに迎合しない。
⑬掲載データを精査する。
という13項目である。
これは今回のような新型コロナウイルス感染に関わるフェイクを含むインフォデミックだけに対応したものではない。既存メディアやSNSをはじめとする多くのネット等の情報を精査するときのチェックリストとして活用しているもので多くの原稿に掲載してきた。参考になれば幸いである。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)