再度、「仕事」の持つ意味について申し上げておきたい。
「仕事」を探す就職活動は人びとにとっての人生最大のイベントの一つである。その「仕事」は、人間的尊厳の基盤や誇りと密接に結びついているだけではなく、社会と個人のつながりの原点でもある。多くの人びとにとって社会に貢献し、社会的責任を果たすポジションでもある。
15年ほど前、私のところに70歳を過ぎた人生の先輩が「北口先生、私はまだまだ元気なんで働くところを紹介していただけないか」と相談に来られたことがあった。彼は大企業で定年まで勤め上げ、第二の就職も終えて、私のところに来られたのである。私はその方に「もうゆっくり自由気ままに人生を謳歌されたらどうですか」とほのぼのと申し上げたとき、彼は「いや先生、私もカラオケやゲートボール等の地域行事もたくさんあり忙しいんです。しかし仕事を辞めてから社会の役に立っていないような気がして、人生に張りがないんです」と言われたとき、はっとしたのを覚えている。まさに労働や仕事は人間の社会的関わりの基盤でもあるということを再認識したのである。
こうした就職・仕事は、企業側から見れば採用と雇用である。企業活動の原点・基盤であり、企業活動の発展や存亡に関わる問題と言っても過言ではない。
どのように採用活動を行うのか、どのように快適に働く場所、職場を提供するのかは、労働者や企業活動に重大な影響を与える。そうした視点から見れば、採用活動や雇用は企業が果たすべき重要な人権課題であるとともに、企業の存続発展の基盤でもあるといえる。
とりわけ今日の日本における少子高齢化をはじめとする人口変動は、採用活動の在り方を大きく変えようとしている。
人財確保である採用活動は、企業が作り出した製品等を消費者に向けて販売する営業活動以上の重要課題になりつつある。一方でIT革命の進化をはじめとする科学技術の進歩は、採用環境や雇用環境だけでなく産業構造も大きく変えつつある。
就職活動のビッグデータを活用して内定辞退率を企業に販売していたリクルートキャリアが大きく指弾されたが、そのデータを購入していた企業も批判の対象になった。
産業構造の大きな変化は、個人情報としてのビッグデータを積極的に活用して、ビジネスを展開する時代を生み出しており、常に個人情報流失やプライバシー侵害問題と関連している。
採用面でも自覚しないまま個人情報やプライバシーの侵害につながっている活動に関わることもあり、不作為の不祥事になっていることすら存在する。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)