今回からSDGsをふまえ企業の社会的責任と人権について考えていきたい。
まず国際連合で人権が一層重視され、人権理事会が創設されることになった基盤的背景について述べておきたい。国際連合創立時の理事会は、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会の三つであった。最も大きな力を持ち、重要な役割を果たしているのが安全保障理事会である。国連の最重要テーマが平和の維持であることは多くの人々がご存じの通りだ。もう一つが経済社会理事会が担っている経済発展・開発である。信託統治理事会はその役割を事実上終えておりその活動を停止している。
国連は安全と経済発展に精力的に取り組んできたにもかかわらず、結果として逆の状況を生み出してしまった。平和を追求してパワーバランスという考え方の下、核兵器が世界に拡散し著しい増加を招いた。皮肉なことに平和を追求して平和を侵す究極の兵器ともいうべき核兵器が驚くべきスピードで増加してしまったのである。
また経済の発展や開発を目指して、結果として地球環境破壊を現出させた。そもそも平和を維持し経済の発展を目指したのは、戦争状態や経済が疲弊し困窮状態が続けば一人ひとりが幸せになれないからである。にもかかわらず地球環境破壊によって、地球温暖化等をもたらし、自然災害をはじめとした大規模化が人びとの生活を破壊するような状況になった。そもそも国連憲章には、①第1条3項 ②第13条b項 ③第55条c項 ④第62条2項等に人権及び基本的自由尊重の条文が明記されている。総じていうなら人権・環境(経済発展と環境)・安全(平和)の実現が国連の主要な目標であるにもかかわらず、上記のような問題を生起させてしまった。
「核兵器の拡散」と「地球環境破壊」の共通点は、人類がともに滅亡する可能性をもつ問題であり、自然災害ではなく人類によってもたらされた問題であることだ。さらに一国だけでは解決できない問題である。こうした中から国際協調が重視されるようになった。つまり究極の目的は、地球的課題としての人権を実現することであり、「国家の安全」から「人類の安全」へ、「国民の経済」から「人類の経済」へ、「国家の中の人権保障」から「国家を超えた人権保障」を実現することである。つまり一人ひとりの人権を実現することが究極の目的であって、そのための平和政策や経済・開発政策の重要性が指摘されたのである。そうした考え方を通して人権の重要性が一層明確になり、人権理事会が創設された。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)