前回紹介した一人ひとりの人権を実現する理念は、SDGs(Sustainable Development Goals《持続可能な開発目標》)の前身である国連ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs《エムディージーズ》)の2000年採択として結実した。
このMDGsは、2015年が達成期限であり、主要な課題は発展途上国を中心とした貧困の削減であり、その目標が以下の項目であった。①極度の貧困と飢餓の撲滅、②初等教育の完全普及の達成、③ジェンダー平等推進と女性の地位向上、④乳幼児死亡率の削減、⑤妊産婦の健康の改善、⑥HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止、⑦環境の持続可能性確保、⑧開発のためのグローバルなパートナーシップの推進である。
このMDGsに代わる新たな世界の目標が2015年に採択されたSDGsである。
誰ひとり取り残さないことを目指し、先進国と途上国が一丸となって達成すべき目標で構成されているのが特徴である。その中には多くの読者もご存じのように17の目標と169のターゲットや230の指標が示されており、三層構造で成り立っている。17の目標テーマは、①貧困、②飢餓・農業、③保険・福祉、④教育、⑤ジェンダー、⑥水、⑦エネルギー、⑧雇用、⑨インフラ、⑩平等、⑪都市、⑫生産・消費、⑬気候変動、⑭海洋、⑮森林・土地、⑯平和、⑰パートナーシップに関することである。
このSDGsは、持続可能な開発のための2030年に達成すべき目標である。
グローバルな目標で、すべての国に普遍的に適用され、法的義務はないが進捗状況のモニタリングと評価は行われる。そのベースは人権の実現である。こうした目標はビジネスと密接に関わっている。
例えば今から30年以上前の1989年5月、米国化学会社大手デュポン社のウーラード会長が、英国・ロンドンで企業と環境に関わって画期的な講演を行い、世界の注目を集めることになったことがあった。その講演で「デュポン社はオゾン層の破壊の原因である特定フロンガスの生産を中止する」と発表したのである。当時、デュポン社は特定フロンの生産では世界最大手の一つであった。フロンガスは半導体の洗浄やクーラの冷媒のために使用され、当時の社会にとって欠かせないものであった。しかし特定フロンは、地球の周りを取りまいているオゾン層を大きく破壊していた。オゾン層が破壊されると、太陽からの有害紫外線が地上に降り注ぐことになり、皮ふガンになったり、遺伝子が破壊される。このような状況をうけて1988年9月30日「オゾン層保護条約・モントリオール議定書」が成立した。この条約は2000年までに特定フロン等を全廃するという内容を含むものであった。
今日の地球環境問題の中心は地球温暖化であるが、当時はオゾン層の破壊問題であった。彼はその条約を遵守するとともにビジネスチャンスにもつなげたのである。詳細は次回に。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)