前回紹介したように米デュポン社のウーラード会長は、世界の地球環境保護の潮流をいち早くキャッチし、「オゾン層保護条約」が成立するや、特定フロンガスの生産中止を発表した。彼は前回紹介した演説のなかで「21世紀が始まる頃に世界の主要な地位にある企業は、環境面の責任を認識しつつ、環境上のチャンスをつかみ取る企業だ」と述べている。つまり彼はオゾン層を守るための特定フロン等の全廃に向けてリーダーシップを発揮し、なおかつそれをビジネスチャンスに結びつけたのである。
彼の演説後、しばらくしてデュポン社はオゾン層を破壊しない代替フロンを開発し、飛躍的に代替フロンの販売を伸ばしていったのである。ある面では、特定フロンの生産中止を行うことによって代替フロンの販売環境を整えたといえる。
彼が述べた環境という言葉を人権に置きかえると、「人権面の責任を認識しつつ、人権上のチャンスをつかみ取る企業」ということになる。このように企業にとって時代の視点を少し変えただけで、たくさんのビジネスチャンスが見えてくる。今や地球温暖化防止にとって二酸化炭素(CO2)の排出を抑制し、CO2の排出と吸収がプラスマイナス0になるカーボンニュートラルの時代を創造することは現実の課題となっており、その実現のためのビジネスチャンスも桁違いに大きくなっている。
SDGsも同じである。持続可能な開発目標を達成するために企業がビジネスを通じていかなる貢献ができるかが問われているのである。本連載で述べてきたようにSDGsは地球上の一人一人の人権を実現するための17の目標である。この目標を実現するという責任を認識しつつ、この目標をチャンスにするという発想が企業等に求められているのである。国連広報センターが紹介しているSDGsの解説にはビジネスに関わる具体的な数字がちりばめられている。
例えば目標①の「貧困を終わらせる」では「経済学者ジェフリー・サックス氏の試算によれば、20年で全世界の極度の貧困に終始を打つためには必要な費用は、総額で年間1750億ドル程度です。この額は、世界で最も豊かな国々の総所得を合わせた額の1%にも及びません」と紹介されている。また目標⑥の「水と衛生」の課題では「基本的な水道・衛生サービスを未供給の人びとに普及するためには2015年から2030年にかけて毎年284億ドルが必要」といったように具体的な数字を上げている。これらは政治問題であるとともに経済やビジネスと密接に関わっている。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)