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【社会に出る学生のための人権入門】(第46回)企業統治原則に「人権尊重」が明記される(2021/06/10)


 これまで本連載で述べてきたように環境が企業経営の最重要課題になり、今日では人権も企業経営の最重要キーワードになった。今や人権をベースにしたSDGsは企業だけではなく社会全体の目標になった。そのためにも経営と業務とSDGsの一体的認識が必要であり、そうした中でSDGs時代をリードする企業になることが求められている。

 例えば、日本において少子高齢化を迎えている現在、多くの企業にとって高齢者の視点がなければ企業経営は成り立たなくなっている。高齢者の視点を持つためには、高齢者の立場に立たなければならない。高齢者の立場に立とうと思えば、高齢者の人権をどう捉えるのかということが重要になってくる。これは単に経営者だけの問題ではなく、すべての従業員の問題でもある。SDGs時代には環境時代と同様にSDGsの実現に貢献できる企業が強みを発揮する。すべての従業員が国内外や社内外の人々に対する人権の視点をより一層強化することが求められる。

 つまり環境・人権・SDGs等の社会的ベクトルを敏感に見抜き、それにどう合わせられるかということが重要になってきているのである。世の中の人権ベクトルが、どういう方向に向いているのかということを察知して、それを経営に生かさなければならない時代になっている。それらを的確に察知するためには人権の視点が経営上もますます重要となっている。

 一方、今日の少子高齢化と人口減少をともなう人口変動は、人権問題と密接に結びついており、日本社会を大きく変えようとしている。また人口変動は企業にも多大な影響を与えている。企業は人を雇用し、雇用した人々に働いていただき、それらの人々が企業が作り出した製品・サービスを購入することによって成り立っている。まさに応募者、労働者、消費者がいるからこそ企業は存立できる。それらの人々の構成が人口変動によって急速に変化しているのである。

 さらに科学技術の急速な進歩は、人権問題をより高度で複雑で重大な問題にしている。これらの人口変動と科学技術の進歩は社会的課題も大きく変動させており、社会的課題解決を担う企業の役割も大きな影響を受けている。科学技術の進歩と企業が密接に関連していることは企業にとっても、人権問題がより高度で複雑で重大な問題として提起されてくるということだ。

 また国際的な課題としても人権問題が大きく浮上している。金融庁と東京証券取引所は上場企業の行動指針を定めたコーポレートガバナンス(企業統治原則)を改定し、「人権尊重」を求める規定を新たに盛り込むことになった。この規定に則って今年12月までにコーポレートガバナンス報告書の提出も求められることになっている。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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