今日の科学技術の進歩にともなう第四次産業革命の進行は、産業構造そのものを大きく変えようとしている。こうした時代だからこそ「人権・環境・安全面の無責任さが、人権・環境・安全上のクライシス」にならないようにしなければならない。逆に「人権・環境・安全面の責任をふまえつつチャンスをつかみ取る企業」にならなければならない。クライシスにつながる企業不祥事の多くは、財務、安全、環境、労働、情報、人権の分野に関連する。こうした分野の全ては人権に収れんすると言っても過言ではない。とりわけIT革命の進化にともなう情報環境の劇的な変化によって、その不祥事も桁違いに大きくなっている。大規模な個人情報に関連する不祥事の具体例を見れば人権侵害の規模の巨大さが顕著である。
何のために製品・サービスの安全が必要かと考えれば自明である。安全でない製品・サービスは消費者・ユーザーに大きな被害を与える。ときには生命に関わる重大な被害をもたらす。それは消費者・ユーザーの人権を大きく侵害する。環境や財務、労働分野の不祥事も同様である。先述したように全ての不祥事は人権に関わっており、究極の目的は人々の人権を守り実現することである。人権に関する認識や意識がなければ企業不祥事を防止する基盤的理念が形成されることはない。
人権認識や感覚を徹底することが、企業不祥事を防止する基盤を作り上げることになる。これらの理念は多くの市民も求めている。(一財)経済広報センターの定期的に行われている「生活者の企業観に関する調査」でも、「省資源・省エネや環境保護などに取り組む」ことや「安全・安心で優れた商品・サービス・技術を適切な価格で社会に提供」すること、「社会倫理に則した企業倫理を確立・順守する」ことを求める市民が多数を占めている。
これら三つの理念は人々の人権を実現するための基盤である。環境が破壊され、安全・安心が堅持できず、企業倫理が順守されない状況では人々の人権は護れない。要するに人々は企業活動全般を通して人権の実現を求めているのである。企業不祥事はそうした人々の願いとは正反対の行為であり、だからこそ強く非難される。それも企業活動を通して、人権を実現しているだろうと信頼されている企業であればあるほど不祥事に対する批判は大きくなる。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)