これまで本連載でSDGs(持続可能な開発目標)について述べてきたが、人権確立のために大きな礎になった国際的文書はSDGsだけではない。2010年11月に発行した「ISO(国際標準化機構)26000」も極めて重要な国際的ガイダンスである。SDGsと同様に持続可能な発展を創造するために、企業以外も対象にあらゆる組織に社会的責任を果たすことを求めて策定された「手引き書」である。世界各国からの93%という高い賛成投票率で採択された。
今日において国際人権規約や人種差別撤廃条約をはじめとする国際人権諸条約も差別撤廃の大きな基盤になっているが、これらの条約への関心は、世界や日本の社会で大きな影響力を持つ企業では、ISO26000と比較して圧倒的に低い。ISO26000やSDGsは条約のように法的拘束力を持つものではないが、事実上それら以上に大きな影響力を持っている。
ISO26000は、これまでの「ISO9000シリーズ(品質管理)」や「ISO14000シリーズ(環境管理)」のような認証規格ではないが、ISO規格の第三世代として企業経営そのものを包括的に対象にし、企業以外もその対象にしているという特徴を持っている。
今日の日本社会の課題を克服するために大きな役割を果たすセクター(部門)は、まず第一に行政・公的セクターであり、第二は企業・営利セクターである。そして第三が非営利セクターである。これら三つのセクターの中でも企業・営利セクターの果たす役割は大きく、他の二つのセクターにも大きな影響を与えている。行政セクターは税を支出することによって社会的課題を克服していくが、その税のかなりの部分を負担しているのは、企業・営利セクターである。
企業・営利セクターは、利益を上げつつ社会的課題を解決し、その利益の一部を行政セクターに税として納めている。また税を納める多くの労働者を雇用しているのも企業である。また企業は行政や非営利セクターである多くのNPOや各種法人と一体としてビジネスを展開する時代に入っている。こうした企業セクターをはじめとする三つのセクターに、以下に掲げる「中核主題」を明示して積極的な取り組みを求めているのがISO26000である。社会的責任の「7つの中核主題」として、「①組織管理・統治、②環境、③人権、④労働、⑤公正な事業活動、⑥消費者、⑦コミュニティー」を上げ、社会的責任の「七つの原則」として、「①説明責任、②透明性、③倫理的な行動、④ステークホルダーの利害の尊重、⑤法の支配、⑥国際行動規範の尊重、⑦人権の尊重」を明記している。まさに「中核主題」と「原則」に人権を掲げているのである。こうした動きもSDGsが2015年に国際連合で採択される背景になった。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)