前回紹介したISO26000が採択される以前の1999年、当時のアナン国連事務総長が打ち出した「国連グローバルコンパクト(10項目)」も同様の内容を参加企業に求めていた。「国連グローバルコンパクト」は、各企業が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組みである。
「10項目」は、4つのテーマの下、①「人権」では「人権擁護の支持と尊重」、「人権侵害への非加担」、②「労働」では「結社の自由と団体交渉」、「強制労働の排除」、「児童労働の実効的な廃止」、「雇用と職業の差別撤廃」、③「環境」では「環境問題の予防的アプローチ」、「環境に対する責任のイニシアティブ」、「環境にやさしい技術の開発と普及」、④「腐敗防止」では「あらゆる形態の腐敗防止」を上げている。これらは差別撤廃・人権確立の方向性と明確に一致する。
この「国連グローバルコンパクト」もISO26000も人権を最重要テーマに上げている。これらの一環として日本企業でも取り組まれるようになってきたダイバーシティ・マネジメントも多くの企業の関心を集めている。ダイバーシティ・マネジメントとは、ダイバーシティ&インクルージョンのことで、違いを認めつつ、違いを包摂し、その強みを活かすことである。
今日の企業にとって異質な人の集団でイノベーション(革新)を起こせるかどうかが重要なのである。違いは属性や働く条件だけではない。ジェンダー、身体状況の違い、人種、国籍、民族、宗教、門地、世代などや働き方、雇用形態、考え方なども含まれる。
多様な人びとの労働は企業存立の基盤であり、働く人びとにとっては人間的尊厳の基盤である。だからこそ企業にとっての最重要課題の一つが、採用や雇用に関することなのである。
いうまでもなく企業は、人を雇い入れ、それらの人びとに企業のために労働を提供してもらうことによって成り立っている。さらに企業で働いた人びとが労働の対価として得たお金で、企業が作り出した商品や製品、サービスを買うことによって成立している。企業から見れば「応募者」、「労働者」、「消費者」が存在するからこそ企業活動は成り立っているのである。
繰り返しになるがまさに人々の労働は企業存立の基盤であり経済の源泉である。この労働が人びとや企業等にどのような役割を果たしているのかを厳正に理解することがSDGsの理解と実践に欠かせないことである。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)