企業には多様なステークホルダー(利害関係者)が存在する。前回紹介した「消費者」も重要なステークホルダーだ。消費者に対しては安全な製品・サービスを提供するための厳格な基準が法的に整備されており、「労働者」にはその働き方に関わって、労働基準法をはじめとする厳格な法整備がなされている。「応募者」が採用されるときには、職業安定法等の法整備がなされているものの、消費者・労働者に関わる法整備に比較すれば甚だ不十分である。しかし就職活動は単なる生活の糧を得るための手段だけではなく、人生の重要なテーマとも密接に結びついている。就職活動を行っている多くの就活生をはじめとする人びとにとっては、人生の大きな節目でもある。
人生にはいくつかの節目が存在する。その最重要である節目が多くの人びとにとっては就職である。人がどのような企業をはじめとする法人や個人とマッチングして働くのか。これらは人生の最重要テーマだ。また就職活動の結果として獲得した仕事は、人間的尊厳の基盤であり誇りでもある。多くの人びとにとって、人間としての誇りは仕事と密接に結びついている。だからこそ経済的な問題だけでなく、やりがいや誇りが持てないという理由でも仕事から離れていく。
こうした就職・仕事は、企業側から見れば採用と雇用である。企業活動の原点・基盤であり、企業活動の発展や存亡に関わる問題と言っても過言ではない。どのように採用活動を行うのか、どのように快適に働く場所、職場を提供するのかは、労働者や企業活動に重大な影響を与える。そうした視点から見れば、採用活動や雇用は企業が果たすべき重要な人権課題であるとともに、企業の存続発展の基盤でもあるといえる。とりわけ今日の日本における少子高齢化をはじめとする人口変動は、採用活動の在り方を大きく変えようとしている。人財(材)確保である採用活動は、企業が作り出した製品等を消費者に向けて販売する営業活動以上の重要課題になりつつある。一方でIT革命の進化をはじめとする科学技術の進歩や新型コロナウイルス感染症は、採用環境や労働環境だけでなく、ビジネスや経営環境も大きく変えつつある。
以上のような企業を取り巻く環境変化は、個人情報保護も含めた公正採用のさらなる強化を求めている。それは形式的な公正採用だけではなく、雇用の面におけるアファーマティブアクション(積極的差別撤廃策)ともいえる。こうした取り組みの強化は、SDGsの実現や企業の社会的評価を高めるだけでなく、確実な人財確保にもつながり、企業にとっても大きな成果をもたらす。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)