国連「ビジネスと人権に関する指導原則」は、国際社会の共通認識として、企業が国際的に認められた人権を尊重する責任を負うことを確認しました。では、企業はその責任を果たすためにどのような行動が求められるのでしょうか。そのひとつが人権デューデリジェンスです。
デューデリジェンスは「相当の注意」を意味しており、指導原則の原則17では、企業がその活動のなかで人権を侵害しないように防止するための4つのプロセスを規定しています。
第一のプロセスは人権影響評価です。事業や取引を新規に行う場合は事前に、その後は定期的に人権侵害が生じてないかを確認します。工場の勤務時間を変更する際は、育児や介護などで影響を受ける労働者に事前にヒアリングします。
第二に、人権影響評価の結果を責任と予算を伴った形で、社内の意思決定や事業プロセスなどに組み込みます。第三は追跡評価です。取り組みを定期的に追跡し評価します。最後は情報開示で、企業の一連の取り組みに影響を受けるステークホルダーがアクセスできるようにします。
このように人権デューデリジェンスは、企業の人権尊重の取り組みをマネジメントする仕組みです。では、対象となる「人権尊重の取り組み」、すなわち「どの人権課題に対して何をするか」については、どう考えればいいでしょうか。
まずは、自社の事業・業務における人権課題の全体像をとらえます。バリューチェーン全体のステークホルダーを前提に、「誰の何の権利」という視点から、自社が抱える人権課題を振り返ってみましょう。
そのうえで、バリューチェーン全体に広がる人権課題の優先度を確認し、それが高いものから順に取り組みます。その際、優先度の評価軸に、「人権侵害の深刻さ」などステークホルダーの立場からの人権リスクの基準を置くことが何より重要です。指導原則は、人権リスクと経営リスクを区別し、後者の視点を求めていません。従って、人権デューデリジェンスでは、ステークホルダーとのエンゲージメント(対話・協働)が不可欠なのです。
菅原絵美(すがわら・えみ)大阪大学博士(国際公共政策)。専門は国際法、国際人権法。