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【社会に出る学生のための人権入門】(第55回)AI(人工知能)の進化が人権問題に与える影響は?③(2022/03/10)


 本年2月24日、前回触れたロシア・ウクライナ情勢が大きく悪化した。ロシアが国際法を無視してウクライナに侵攻し多くの市民の命が奪われている。
 この連載でAIと戦争に使用されるロボット兵器(自律型致死兵器)についても執筆してきたが、プーチン大統領は核兵器の使用までほのめかす状況である。戦争と差別は一体であり平和と人権も一体である。戦争が最大の人権侵害であることは自明である。
 今回の侵攻でAI兵器は使用されていないが、未来において今回のような侵攻が行なわれた場合、AIを搭載したロボット兵器が使用される可能性は極めて高い。その意味で核兵器を制御するのと同じぐらいAI兵器の制御は重要である。それは戦争だけではなく日常生活にとっても最重要課題になっている。
 前回、AIの「判断」について論じたが、戦争だけではなくあらゆる場面で活用されるAIついてはより深く広く議論する必要があるだろう。

 かつて紹介したことがあった「今だけ金だけ自分だけ」という世相が強い今日の人間活動がビッグデータになっていれば、そのデータから学んだAIの判断は同じ傾向を持つことになる。
 今だけではなく長期的な視点で、金だけではなく総合的な視点で、自分だけではなく全ての人びとの視点で的確な判断をするAIを構築するためにはビッグデータの活用方法にもさらなる精査が求められる。
 日常生活においても私たちは多くの判断を行なっている。その判断は同じ状況に置かれても人によって異なる。なぜなら人によって価値観や倫理観は大きく異なるからである。
 民主主義はその異なる価値観などを調整するために議会で議論し妥協点を見つけ出すためのシステムでもある。例えば多くの「AI議員」が誕生したとしよう。これらのAI議員で特定の議題に関する議論を繰り広げたとしてもAIによって「価値観」や「倫理観」、「人権感覚」が異なれば活発な議論が交わされるだろう。
 囲碁や将棋の世界でもAI棋士をさらに強くするためにAI同士で対局をさせている。それでもこれまでのビッグデータによる学びによって指し手は変化する。囲碁や将棋の対局判断で「価値観」や「倫理観」、「人権感覚」はほとんど関係ない。
 しかし人間活動の多くの判断には人権感覚等が大きく影響する。

 どのようなビッグデータで学ぶのかによってAIの「倫理観」等は異なってくる。深層学習ができなかった頃のコンピューターは、人間が決めたルールに沿ってコンピューターが最適解を選び出していた。あくまでも人間の価値観が判断基準の前提にあった。
 しかし特定ジャンルのビッグデータを学んで一定のルールを導き出したAIは、自ら作り上げた「価値観」等に基づいて判断する時代が来るかも知れない。それが戦争の手段としての武器や兵器に組み込まれていれば、そのAIの判断基準をふまえて殺害目標を決定することになる。今はその瀬戸際の時代である。
 こうした時代を人権確立の方向に誘導するためにさらに考察を深めていきたい。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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