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【ビジネスと人権を考える】供給網に潜む強制労働 大阪経済法科大学教授 菅原絵美(2021年11月18日付 日本経済新聞 朝刊より転載)(2022/03/17)


 「現代奴隷」という言葉をご存じでしょうか。文字通り、奴隷にあたるような強制労働、児童労働、強制結婚、人身取引などを指します。暴力や脅しなどで、人がある仕事を拒絶することも仕事から離れることも実質的にできないよう搾取されている状態です。

 国際労働機関(ILO)報告書によれば、現代奴隷の被害者は世界で4000万人(2016年)に上ります。世界で考えれば約200人に1人が被害を受けていることになります。

 13年にバングラデシュで起きた縫製工場ビルの倒壊事故は、今なお記憶に新しい出来事です。倒壊により1100人以上が死亡しましたが、その労働者たちは低賃金・長時間労働に就いていました。なかには事故の前にビルに亀裂が入ったことを訴える人もいましたが、無視され仕事を続けるよう強要されていました。この縫製工場では私たちに身近なブランドの商品が作られていました。

 現代奴隷にあたる児童労働や強制労働は、企業の社会的責任(CSR)でも、すでに課題とされていました。しかし、多くの日本企業はあまり「関係ない」問題として受け止めていたのではないでしょうか。

 これらの課題が、あらゆる企業に具体的な対策を求めるものとして認識されるようになったのは、15年の英国現代奴隷法がきっかけです。この法律によって、英国現地法人および英国で一定規模のビジネスを行う日本企業は、取引先を含めた現代奴隷防止対策の情報開示を求められました。

 米国務省が01年から毎年発表している「人身取引報告書」では、日本の技能実習制度が強制労働の温床として取り上げられました。近年では、中国新疆ウイグル自治区での強制労働も指摘されています。

 ビジネスと人権に関する指導原則では、企業の人権尊重責任はバリューチェーン全体に及ぶとされます。自社が人権デューデリジェンスを怠ったことで防げなかった現代奴隷については、取引先とともに問題を是正し、被害者を救済するところまでが責任の範囲です。是正・救済されるまでは取引先に働きかけ続けることが求められます。

菅原絵美(すがわら・えみ)大阪大学博士(国際公共政策)。専門は国際法、国際人権法。


     

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