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【ビジネスと人権を考える】投資家に求められる責任 大阪経済法科大学教授 菅原絵美(2021年11月19日付 日本経済新聞 朝刊より転載)(2022/03/24)


 日本でもESG(環境・社会・企業統治)投資の社会性の要素として、人権への関心が高まっています。

 企業の社会的責任(CSR)と結び付けた投資は、かつてはSRI(社会的責任投資)、現在ではESG投資、サステナブル投資などと呼ばれます。いずれも財務だけでなく、環境や社会面での指標を組み入れて投資対象を決定します。

 このことは、企業にとって社会的責任、さらには人権尊重責任を促進するインセンティブになります。投資家と企業との対話を通じて持続可能性を高める動きは日本でも積極的です。

 経済産業省を中心に価値協創ガイダンスが策定されました。サステナビリティー課題への対応では、企業側はコーポレートガバナンス・コードを通じた積極的な取り組み、機関投資家側はスチュワードシップ・コードをもとに運用戦略に応じた考慮が求められます。今年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂版では、サステナビリティー課題に人権尊重を明記しています。

 機関投資家はスチュワードシップ責任として、企業の人権尊重の取り組みを考慮するよう求められるだけでしょうか。機関投資家もビジネスを行う主体として、企業と同様に人権を尊重する責任を有しています。持続可能性を追求する機関投資家のイニシアチブである「責任投資原則(PRI)」は、2020年10月、投資活動における人権尊重責任を確認する報告書を発表しました。

 「ビジネスと人権」における投資家の役割と責任は大きいのですが、投資家は企業活動によって人権侵害を受ける当事者ではありません。欧州連合(EU)は人権デューデリジェンスや是正・救済を義務化する指令案を検討していますが、今年3月の欧州議会案に対して国連は、「株主は人権侵害の被害者の声を代表するステークホルダーではない」として、広範なステークホルダーの定義を見直すよう勧告しました。

 企業の人権尊重責任の中心は、労働者、消費者、地域住民など当事者とのエンゲージメント(対話・協働)です。投資家ではないことには注意が必要です。

菅原絵美(すがわら・えみ)大阪大学博士(国際公共政策)。専門は国際法、国際人権法。


     

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