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【社会に出る学生のための人権入門】(第62回)フェイクを見抜く情報リテラシーを(2022/10/13)


 今年は世界情勢の中でも2月24日のロシアによるウクライナ侵攻によって「平和と戦争」が最重要テーマに浮上している。この戦争が世界の政治・経済に圧倒的な影響を与え、学生の就職活動にも少なからず影響をもたらしている。「戦争と差別」は一体であり、「平和と人権」も一体である。そして戦争や差別と一体なのが情報操作でありフェイク情報である。差別を助長するフェイク情報が横行する社会では平和も維持できない。またフェイク情報を見抜く情報リテラシーや強力なファクト(事実)チェックがなければ偏見や差別意識はなくせない。フェイク情報を排除し差別問題に対する正しい情報が浸透しなければ差別状態は永遠に続く。人権教育や差別撤廃教育は差別助長情報を見抜く情報リテラシー教育が基盤になければ浸透しない。

 例えば民主主義の基盤をなす各種選挙戦が情報戦であることは多くの人びとが理解している。多くの国家ではその選挙戦によって大統領や首相等が選出され、議会の政治勢力も決まる。それらの政治的リーダーや議会構成が戦時の場合、戦争に圧倒的な影響を与える。実際の戦争には多額の費用が必要であり、それらの支出を決定するのは議会や大統領である。つまり民主主義を標榜する国家においては情報戦としての選挙があらゆる政策に極めて大きな影響を与える。以上のような視点に立てば「情報がすべてを決する」という言葉の重要性が理解できるだろう。

 ロシアの侵略から始まったウクライナとの戦争においても情報戦が極めて大きな役割を担っている。その「情報」のもつ威力はIT革命の進化によって飛躍的に大きくなっている。一言でいうなら5W1Hで情報を駆使することによって無限大に近い影響力を行使することができる。内容・関係・時間・場所・目的・方法(態様)の一つ一つについて深く考えることが重要なのである。例えばこれまで私たちが「情報」と表現すると言葉や音声、映像等、人間の五覚すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚等で認識できる内容のものであると認識してきた。しかし今日の情報は五覚では判断できない電子空間上の信号や暗号等となり変幻自在の役割や形態となった。また世界中を瞬時に移動するものとなり、輸送する必要がないものになった。プログラミング言語によって作られた各種アプリは電子空間上でダウンロードするだけで使用可能になる。販売する方も輸送する経費と時間はほとんど必要なくなった。サイバー攻撃を行なう「武器」もサイバー上を駆け巡るコンピューターウイルスに代表されるマルウェアという「情報」である。仮想通貨(暗号資産)も情報通貨といわれるように「暗号」という情報であり、これまでのコインや紙幣のような物体ではない。物体はいくら軽い紙幣でも現実空間で運ぶ必要があり、電子空間では運ぶことができない。しかし情報は電子空間で瞬時に伝えることができる。それは暗号資産も同じだ。これらは私たちの五覚では認識できない情報である。これらが圧倒的な影響力をもつようになっていることを忘れてはならない。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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