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【社会に出る学生のための人権入門】(第65回)ますます重視されるビジネスと人権(2023/01/12)


 国連人権理事会で2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で採択された。あれから間もなく12年を迎えようとしている。欧米では指導原則の法制化も進んでいる。日本政府は2020年になって国内行動計画を決定したが、極めて遅い取り組みである。これでは日本企業は「人権面の責任を認識しつつ人権上のチャンスをつかみ取る企業」にはなれない。これから社会に出る学生にとって上記のフレーズを本質的に理解してほしいと思う。日本社会でバブル経済の崩壊が重大な問題になったのが1990年代初頭である。その頃から日本経済の低迷が続いている。

 今、個人情報をはじめとする「情報」がビジネスにおいて極めて重要なキーワードになっている。個人情報保護はヨーロッパにおいては基本的人権として極めて重要な位置を占めており、デジタル情報資本主義といわれる時代において、個人情報保護はビジネスにおいても最重要課題になっている。そうした点を明確に認識しないと上記のフレーズとは逆に「人権面の無責任さが人権上のクライシスを生む」ことになる。人権侵害につながる情報不祥事は近年ますます増加している。個人情報を含むビッグデータはビジネスにとって極めて有用なものであり、これらのビッグデータを活用しなければビジネスにとって大きな足かせになる。ビッグデータをチャンスにできるかクライシスになるかは、企業構成員の人権認識に深く関わっている。

 上記の点を環境を事例に考えていきたい。30年以上前の1990年5月に上記のフレーズと同じ内容のことを地球環境ついて語った優れたビジネスリーダーがいた。彼は「21世紀が始まる頃に主要な地位にある企業は、環境面の責任を認識しつつ環境面のチャンスをつかみ取る企業だ」と明言した。そのビジネスリーダーとは米デュポン社の当時のCEO(最高経営責任者)であったウーラード会長である。当時、地球環境問題の中心は現在の地球温暖化問題ではなく、地球を取り巻くオゾン層が破壊されているという問題であった。人工的に造られた「特定フロン」等によって破壊されていることが明らかになっていた。もちろん当時から地球温暖化は重大な問題であったが、最も喫緊の課題は太陽からの有害紫外線のバリアの役割を果たしているオゾン層の破壊を如何にくい止めるかという問題であった。その特定フロンを製造している最大手の一つが化学を扱っていたデュポンであり、その企業のトップがウーラードであった。デュポンの特定フロンの年商は当時の日本円で約1000億円もあった。彼は上記のフレーズの前に我社は「特定フロンの製造を中止する」と明言したのである。詳細は次回に紹介したい。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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