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【社会に出る学生のための人権入門】(第68回) 激変する社会の中で求められている時代認識とは②(2023/04/13)


 前回紹介した米デュポン社のCEOであったウーラード会長の時代を先取りする認識がなければ、多くの企業の特定フロン製造中止の決断も遅れたといえる。そうした決断の遅れはオゾン層の回復に致命的な打撃を与えただろう。30年以上前に今日のように環境分野のビジネスが大きく発展すると考えた人は極めて少なかった。今、何を環境ビジネスと捉えるかによって数字は大きく変わってくるが、100兆円を超える世界市場になっている。

 今日においては多くの企業がSDGsに取り組んでいるように「持続可能性」が重要なキーワードになっており、地球温暖化防止が世界の最重要課題になっている。そのために2050年にカーボンニュートラル(CO2の排出と吸収をゼロにする)を実現するための国際的な政策が推進され各国で取り組まれている。

 「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」が「1.5度特別報告書」で明らかにしたように2050年にCO2をゼロにできれば1.5度の上昇に止められる。1.5度に止めることができれば災害リスクを大幅に抑制できる。EUはそれを実現するために化石燃料の長期的抑制を明確にし、代替エネルギー開発に膨大な投資を計画している。温室効果ガス削減目標を引き上げ、2030年に50~55%を削減することにしている。1990年時の目標は40%削減であったことから考えると大幅な引き上げである。さらに2050年に100%の削減を目標にした。これらの目標を達成するためにESG投資を拡大し、欧州投資銀行は化石燃料全般への融資を2021年で中止と決めた。ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー事情が大きく変化したことによって流動的な面は存在するが大きな傾向は変わらない。

 また新型コロナウイルス感染症禍で大きな打撃を受けた経済を復興させることと上記の目標を実現することをふまえた経済復興プラン「グリーンリカバリー」を打ち出した。環境ビジネスというよりもビジネス全体が地球環境保護に舵を切ったといった方が正確だといえるビジネス環境になった。これらの方向性を堅持するためのフレームワークが2015年からのSDGsであり、同年のいわゆる「地球温暖化防止条約・パリ協定」である。 環境と人権は一体である。持続可能な社会を創造しない限り一人ひとりの人権を実現できないことは言うまでもない。多くの企業はステークホルダー(利害関係者)等の人権を実現するために多くの製品やサービスを提供している。そうした広い意味での人権認識を明確に持ち、ビジネスを通して人権を実現するとともに、地球環境保護も含めビジネス活動の中で人権侵害を生み出さないという発想が今後ますます求められていることを肝に銘ずる必要がある。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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