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【社会に出る学生のための人権入門】(第69回) チャットGPTがこれからの社会に与える影響①(2023/05/11)


 今日、激変する社会の中で最も大きな影響を与えているのはIT分野の進展である。とりわけAI(人工知能)の進化は、チャットGPTに代表されるように驚異的な進歩だ。これまでも科学技術の進歩は人権問題をより高度で複雑で重大な問題にしてきた。

 機械工学の進歩は人間の肉体労働を大きく軽減し、過酷な労働から多くの人びとを解放した。重い荷物を運ぶ労働もブルドーザーや自動車、鉄道等が難なくこなしてくれるようになった。それだけではない。人力で運ぶスピードをはるかに超えるスピードになった。つまり機械工学は人間の筋力を限りなく増幅した。
 その機械工学の進歩が歴史において多くの人びとの働く場を奪い、多様なマイナス面も生み出した。自動車は極めて多くの恩恵を私たちにもたらしたが、交通事故でなくなる人びとも膨大な数になった。

 科学技術の進歩は自動車に代表されるように常にプラス面マイナス面をもつ。それは情報工学の進歩も同様である。
 自動車は多くの仕事をなくしたが、自動車運転手のように新たな仕事も多く生み出した。各種自動車の運転手だけではなく、自動車を製造・整備・管理するための多くの労働を生み出した。それら以外にも自動車産業の裾野は極めて広く、多くの労働者がその裾野で働いている。
 今やデジタル革命の進展を十分に享受できていない日本の産業界の中にあって、自動車産業は日本の基幹産業の中心を担っているといっても過言ではない。今後の自動車産業は地球環境に貢献する方向とデジタル化の推進という方向がより一層加速されていくだろう。そんなに遠くない時期にチャットGPTを搭載した自動運転車が町の中を走行する時代が来るだろう。

 しかしこのチャットGPTは自動車以上に私たちに大きなプラスとマイナスをもたらす。
 情報工学の進歩は人間の筋力ではなく、意識や「知能」を限りなく増幅する。とりわけ今日のAIは人間の知能を驚異的なスピードで代替していく。今日の労働の多くは肉体的というよりもコミュニケーションと知能を使った判断が大部分を占めている。
 現場労働も多くの判断をしながら肉体を駆使して仕事をこなしていく。高度な判断や知的労働もチャットGPTを始めとするAIが多くを代替するだろう。自動車の運転も認知・判断・操作であり、その多くはドライバーの頭脳労働でもある。
 そのように考えていけば機械工学の進歩以上に情報工学の進歩が多くの仕事に影響を与えていく。次回はさらに掘り下げていきたい。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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