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【社会に出る学生のための人権入門】(第76回) チャットGPTがこれからの社会に与える影響⑧(2023/12/14)


 激変する情報環境の中で「小さな情報力」で飛躍的に「大きな情報力」を生み出すことができるようになった。それも二倍や三倍といった小さな変化ではない。それは前回紹介したフェイク情報の膨大な拡散にもつながった。インターネットやスマートフォンといったシステムと機器の登場によって、情報の在り方が根本的に変化した。これらにプラスしてチャットGPTに代表される生成AIがさらに情報環境を大きく変えようとしている。それらが情報格差を飛躍的に拡大させた。この「情報格差」はあらゆる格差につながっていく。情報力の差は物理的な力の差以上に大きな影響を与える。情報力の差は物理的な力を飛躍的に増強するだけではなく、例えば戦争の前提である国際政治や各国政治に大きな影響を与える。これらは物理的な力の差である武器の調達にも大きな影響を与え、戦争の勝敗までも左右する。ロシアの侵攻によって始まったロシア・ウクライナ戦争も、これまではウクライナの情報戦力の優位性によって、多くの西側諸国から多くの経済や戦力面でのバックアップがなされた。それはロシア・ウクライナ戦争だけに限ったことではない。

 生成AIを駆使すれば、「小さな情報力」で「大きな情報力」を獲得することができる。国際的な世論操作・情報操作も可能だ。その一例が生成AIの翻訳機能だ。多言語に対応できているチャットGPTの翻訳力を駆使すれば、言語の壁を超えた情報操作が可能になる。このように強靱な情報力ともいえる生成AIが世界に大きな影響を与える時代が迫っている。これらの情報が主要な資本を形成する時代になりつつある。今やかつての資本に代わるものが「情報」であり、「アプリ」や「ソフトウェア」だ。地主がその土地から利益を上げた時代から、生産工場から利益を得る時代になり、お金が利益を上げる時代になった。そして「デジタル情報」がお金を生み出す時代になった。資本の在り方が根本的に変わったということだ。産業資本主義から金融資本主義に変わり、情報デジタル資本主義の時代になった。間もなく生成AIが資本の一部を形成する時代になるだろう。

 教育分野に与える影響も極めて大きくなるだろう。高度な専門的能力を持つ生成AIがあるなら、人間が特定のスキルを習得する必要がないのではないかという人びとも少なからずいる。私がGPTの翻訳能力の水準を紹介すると語学教育の必要性に疑問を抱く人びとは必ずいる。しかし問題はそう単純ではない。

 就活生が多くの企業や行政機関等に就職し、仕事が身についてきた頃に生成AIと仕事の関係はより深まっている。その時、生成AIと人権も大きなテーマになっていることを予告しておきたい。

北口 末広(近畿大学人権問題研究所 主任教授)


     

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