SNSが現代社会に与える影響は甚大なものである。
SNSとは読者の方も十分理解しているように「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」(ネット交流サービス)の略で、インターネット上で人びとが情報を共有し、交流するためのオンラインプラットフォーム(オンライン情報基盤)のことである。そのSNSが「第五の権力」といわれるほど大きなパワーを持つようになった。筆者のところに人権相談に来る学生の相談内容は多くがSNSと関連している。守秘義務があるので具体的な内容は紹介できないが、多種多様な内容である。
しかしSNSには情報基盤を提供している企業はあっても、その基盤上で交流される情報内容を当該プラットホーム企業が作成しているわけではない。その基盤の上で情報交流しているのは多様な人びとや組織だ。SNSが登場してきた頃はフェイク情報が蔓延し人権侵害や民主主義を脅かすようなものになるとは多くの人びとは考えていなかった。逆に個人の情報発信がマスメディア的な広がりを持つことは大衆に積極的な力を与えると信じられ、民主主義が促進されると考えていた人びとが圧倒的に多かった。現実的にも独裁的な政治を民主主義の政治に変革するためにSNSは大きな役割を果たした。SNSが民衆の側にマスメディア的なパワーを与えることは良いことだという暗黙の了解があった。
しかし「民衆の側」や「一個人」にマスメディア的なパワーを与えてしまったことによって、SNS上の情報内容や情報拡散がルールのない制御できないものになってしまった。一個人が発信した真偽不明の情報が不特定多数の人びとに瞬時に伝わるようになりそれらの情報はフェイク情報か否かでさえ審査されないまま急速なスピードで拡散されるようになった。結果として多くの人びとはフェイク情報の洪水の中に投げ込まれた。こうした状況に加えて、これまで本連載で取り上げてきたChatGPT等に代表される生成AIの登場によって、情報環境の劇変は社会に圧倒的な影響を与えるようになった。
しかしSNSが個人や組織に与えたパワーは、社会に積極的な影響を与えるようになった。これらのSNSを駆使できる者とできない者との間に大きなパワー格差が生まれたことも自明だ。何が正しくて何が誤りかでさえSNS上の情報拡散が握っていると言っても過言ではない状況なりつつある。かつて「ウソも百回言えば本当になる」とナチスドイツの宣伝相であったゲッペルス?が言ったと伝えられているが、SNS上では瞬時にフェイクが「百回」を超える状況になっている。こうした状況を改善しない限り社会状況も人権状況も悪化していくことになってしまうことは間違いない。
次回、SNSと人権ついてさらに考察していきたい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)