
本連載で以前にも述べたことがあったが、「自覚なき加害者は加害者としてあり続ける」ことを忘れてはならない。当然のことだが「自覚なき加害者」は自身がLGBTQの人びとに対して人権を侵害しているという意識や感覚はない。そもそも自身がLGBTQの人びとに対して偏見を持っているという観念がない。企業の経営層でLGBTQに対して偏見や予断を持っている人は部下から注意をされても逆に注意をしている部下に対して悪感情を抱くことも多い。こうした事態になると組織内や社内では誰も注意をしなくなる。そうしたことが本人の気づきをますます遅らせる。
遅らせるだけではなく自身の偏見に基づいて自身の感情や感覚に合致した差別的な情報だけを信じてしまうことになる。まさにフィルターバブル現象と同じことが加速されてしまい、ますますLGBTQに対する偏見が強化されてしまう。そしてそうした経営者は社内や組織内では権力者であることによって正しい情報が極めて入りにくくなる。周りからは腫れ物扱いになり正しい情報が入らなくなる。まさに情報悪循環が発生する。相手の立場や感情を考えることが重要であるにもかかわらず、自身の偏見にも気づかず社内外のLGBTQの人びとを傷つけてしまう。これでは「ビジネスと人権に関する指導原則」が重視されている時代においてビジネスリーダーは務まらない。
今日においてもLGBTQの人びとに対して全く自覚なしに人権侵害発言を行っている人はかなりの割合でいる。マイクロアグレッションの現場に遭遇し気づいた人びとは少なくとも支援者になってほしいと思う。マイクロアグレッション・差別・いじめ等の問題には加害者、被害者、支援者、傍観者が存在し、観衆的傍観者、逃避的傍観者、沈黙的傍観者等がいる。これらの傍観者が支援者に変わるだけでLGBTQの人びとは大きく救われる。これまでカミングアウトとアウティングの違いについて述べたことがあったが再度述べておきたい。カミングアウトとは周りを信頼して自身の性的指向や性自認ついて明らかにすることであり、LGBTQへの理解がある程度進んだことによってカミングアウトをする人びとが増加している。しかしその周りの中で十分に理解していない人がいるだけでアウティングする(晒す)人も少なからず存在する。その行為はLGBTQの人びとを大きく傷つける。それを忘れないでほしい。
北口 末広(近畿大学人権問題研究所 特任主任教授)